ディレクターズコラム

DIRECTORS COLUMN

蓑茂壽太郎チーフディレクターが語る「日本政府苑」に込めた、”自然観の再考”

インタビュー会場のソファに座り正面を向く蓑茂壽太郎チーフディレクター
蓑茂壽太郎氏

2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)のメインコンテンツの一つとして、国土交通省と農林水産省が連携して準備を進めている「日本政府苑」。

「幸せを創る明日の風景」をテーマとし、地球規模の環境問題に対する自然を活用した解決策(Nature-based Solutions)を描こうとするエクスポにおいて、来訪者にどのような体験を提供するのか。

全体統括を務めるチーフディレクター・蓑茂壽太郎氏にインタビューを実施。日本政府苑が担うべき役割やその目的をはじめ、展示コンセプトである「日本の自然観を再考し、未来へ進む」の背景にある思想に迫る。

「日本政府苑」が伝えようとするものとは何か

日本政府苑を上空から見た鳥瞰図。手前に瓦屋根の展示施設と池のある庭園が広がり、その奥に博覧会場の花壇エリア、遠景に市街地と海が見える
日本政府苑の鳥瞰図

――園芸にとどまらず環境という幅広いテーマを掲げて開催するグリーンエクスポにおいて、日本政府苑はどのようなメッセージを発信するのでしょうか。

蓑茂氏:国際博覧会の開催も日本政府苑の出展も、世界の一員として日本が果たすべきメッセージを込めて役割を示す、非常に重要なミッションです。先の大阪・関西万博2025が新たな「文明」の可能性を示したとすれば、今回の博覧会は、園芸博覧会として、「環境共生」や「文化」の視点から未来を示すことに大きな意義があり、日本政府苑からのメッセージにも、この視点が必要です。

――「環境共生」という視点は、今の日本が抱える課題と、どのように結びついているのでしょうか。

蓑茂氏:現在、日本は人口の大半が都市部に集中し、他の主要国と比べても都市への偏りが大きくなっています。都市部で過密化が進む一方で、地方では手入れの行き届かない農地や山林が増加し、近年の深刻化する気象災害の一因にもなっています。こうした「都市の過密と地方の過疎」という国土の課題に対し、花や緑を通して次世代につながる持続可能な環境のあり方を提示することは、国として取り組むべき切実なテーマなのです。

――その課題に対して、日本政府苑はどのようなアプローチをとるのでしょうか。

蓑茂氏:自然を「力」で克服するのではなく、共生してきた日本の国、及び日本人の伝統的な考え方を「令和ならではの提案」として再構築することです。このことを単なる理念として語るだけでなく、庭園や展示という実際の空間体験を通して直接世界へ発信していきます。

日本政府苑全体を通して伝えたい「日本の自然観」や「みどりの価値」

窓際の席で手振りを交えて話す蓑茂壽太郎チーフディレクター

――日本政府苑のコンセプトの中の「日本の自然観を再考」とは、日本の伝統に光を当てるということなのでしょうか。

蓑茂氏:日本政府苑のコンセプトは「日本の自然観を再考し、未来へ進む」であり、前半部分は日本の国土における自然の価値、そして日本人の自然に対する価値意識があります。後者の「未来へ進む」という表現には、単なる伝統の紹介にとどまらず、伝統と未来展望の交差から新しい価値を生み出す博覧会としての期待感を込めています。かつての日本の自然観をそのまま持ち出すのではなく、現代の課題に照らして読み直し、次の時代へつないでいく。それが「再考」という言葉に込めた意味です。

――その「自然観」を表現するうえで、今回の日本政府苑では「みどり」という言葉が用いられていますが、ここにはどのような意図があるのでしょうか。

蓑茂氏:この博覧会はGREEN×EXPO 2027です。漢字の「緑」という言葉だけでは説明しきれない、翠や碧、そして美土里まで、こうした日本独特の豊かな概念を伝えるために、あえてひらがなの「みどり」と表現することがあります。私たちが伝えたい「みどり」には、3つの重要な側面があります。

  • 生活の「みどり」:身近な庭や公園など、人々の暮らしを潤す存在
  • 生産の「みどり」:水田や畑などの農地で、食や営みの対象としての存在
  • 生命の「みどり」:奥山や水源林など、生き物の命を宿し、大地を守る存在

今回の2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)は、単に花を観賞するだけでなく、この「生活・生産・生命」という3つの「みどり」が私たちの命や暮らしを支えているという構造を、空間全体で体感していただく場とする必要があり、日本政府苑でもその点を重視しています。

――自然を克服するのではなく、共生していくという姿勢ですね。蓑茂さんご自身の研究や造園の歩みとも重なる部分があるのでしょうか。

蓑茂氏:まさに私の専門である造園(ランドスケープ)の原点です。若い頃に出会った『Design with Nature』という書籍には「自然を人間の力で克服するのではなく、自然の理に合理的に適応しながらデザインする」という教えがありました。近年の自然災害などを見ても分かるように、人間が自然をコントロールすることには限界があります。「自然と共に生きる」という先人の知恵を現代社会の変化に適応・進化させて導入していく。その思想こそが、日本政府苑の根底に流れているのです。

日本政府苑全体の設計思想と、来場者に体感してほしいストーリー

日本政府苑の全体平面図。左と中央右に展示施設の建物があり、その上側を池と流れのある庭園が横切るように広がる。中央から左下へ小川が流れ、周囲を博覧会場の園路が取り囲む
日本政府苑 全体平面図

――苑全体の設計思想について、特に大切にされていることを教えてください。

蓑茂氏:一つは、計画対象の土地そのものが持つ可能性を丁寧に読み解くことです。予定地を最初に訪れた際、西から東に緩やかに上り勾配の地形が、その奥にある里山へと続く心地良さを感じ取り、この敷地の個性を活かした計画の方向を定めました。それと同時に、このプロジェクトは多くの人の協働になりますので、各分野の担当者がそれぞれの専門性を発揮しながらも、個々バラバラでなく、一つのチームとしてまとめ上げていく。私自身は細かな指示を出すのではなく、その土地の個性を各担当者がどう読み解き、形にしていくかを見守る立場を取っています。

――建物と庭、それぞれの関係性についてはどのようにお考えですか。

蓑茂氏:政府苑は「庭屋一如(ていおくいちにょ)」という考え方を軸にしています。建物と庭を切り離さず、両者が調和して一体のものとして計画するという思想です。空調技術の発達により、本来つながっていたはずの建物と庭の関係が失われてきました。しかし、これからはより一体として屋内と屋外を考えていくべきでしょう。日本政府苑ではこの一体性を取り戻すことを幾つか目指しています。

木のルーバー天井の回廊。右側は全面ガラスで庭の緑が見え、ベンチに腰かけた人々が庭を眺めている
建物と庭が一体となる回廊イメージ

――「令和日本の庭」という表現にも、独自の意図が込められているそうですね。

蓑茂氏:令和という時代に作られた日本庭園、という単純な意味ではありません。近年頻発する大規模な水害などの災害を踏まえ、これからの国土のあり方を示す一つのモデルとして発想し、構想して庭という形に落とし込もうと試みています。人に近い庭の部分、少し距離をおいた場所に広がる庭、そして木立から森。和泉川の源流域であるという立地特性を活かし、これらが一つのまとまりとして連続する構成は、雅の園、恵の園、そして営の園と展開していくことになります。

手描きのスケッチ。手前に石組みのある池と草地が広がり、桜や新緑の木々の間を木道が通る。来場者が散策し水辺を眺めている
「令和日本の庭」イメージスケッチ

――建築や展示など、多様な要素が並ぶ中で、全体としてのまとまりあるものにできるのでしょうか。

蓑茂氏:それをまとめ上げているのが「多様の統一」という考え方です。個々の建築や展示がそれぞれの個性を発揮しながらも、全体としては一つの風景として調和して見える。そのバランス感覚を、苑全体を通して貫いています。

――日本政府苑が、来場者にどのような変化や気づきをもたらすことを期待しますか。

蓑茂氏:知識として聞いただけでは案外早く忘れてしまいますが、実際に見たこと、さらに体験したことは記憶に残り続けます。だからこそ、この日本政府苑を訪れたことが、その後の行動のきっかけになるような体験の場もしっかり提供したいと考えています。地球環境の課題は、誰かに指示されて変わるものではなく、一人ひとりが自分ごととして行動を変えていくことでしか解決に近づきません。日本政府苑での体験を、きっかけにして自然に優しい行動をしてくださる方が一人でも増えることを願っています。

――海外からの来場者は、日本政府苑での体験を通じて、何を得られるのでしょうか。

蓑茂氏:海外からの来場者に対しては、日本がこれまで何を経験し、何を見直してきたのかを発信していきたいと考えています。特に、同じように水田農業や自然災害と向き合ってきたモンスーン・アジア諸国の方々には、日本の取り組みが自国に持ち帰れる何かの価値あるヒントになれば、これほど嬉しいことはありません。それは将来的に、国際協力のような形に十分つながっていくと考えています。

蓑茂壽太郎チーフディレクター

蓑茂 壽太郎(みのも としたろう / Minomo Toshitaro)

チーフディレクター

東京農業大学 名誉教授・農学博士

熊本県立大学 名誉フェロー

登録ランドスケープアーキテクト(RLA)フェロー

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